
天然秋田杉の柾目を薄く剥ぎ、煮て曲げ、山桜の樹皮「樺」で縫い留める秋田・大館の曲物。金具も接着も使わない。おひつは杉が調湿し、ご飯をもちもちに保つ。昭和五十五年、国指定伝統的工芸品。
ご飯を、木が呼吸する器に。
秋田の北、大館。ここには、天然秋田杉の柾目だけを薄く剥ぎ、湯で煮て、手で丸く曲げる曲物(まげもの)の技がある。継ぎ目は山桜の樹皮——「樺(かば)」で、一針ずつ縫い留められる。金具も接着も使わず、木と木、木と皮だけで、軽く弾力のある器ができあがる。
起こりは古い。慶長七年(一六〇二)、城下の窮乏を救うため、大館城主・佐竹西家が下級武士たちに内職として曲げわっぱづくりを奨励したと伝わる。平安の遺跡からも曲物の器は見つかっており、暮らしの道具としての歴史は、さらに遡る。
曲げわっぱの美しさは、使うほどにわかる。おひつに移したご飯は、杉が余分な水分を吸い、ほどよい湿りを保って、時間がたってももちもちのままだ。弁当箱を開ければ、杉が香る。作り手の名は、器に残らない。残るのは、まっすぐな木目の一本一本と、樺の縫い目の律儀な連なりだけ。
昭和五十五年、国の伝統的工芸品に指定された。名もなき手が、名もなき人の食卓のために、今日も木を曲げている。



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