
畑の暦の外からやってくる春の緑。たらの芽、こごみ、ふきのとう。かつての救荒食は、いま春いちばんの味覚。
山菜は、育てるものではなかった。採るものだった。雪が退いたあとの山肌に、畑の暦とは関係なく芽吹いてくる緑——それを、里の人は数週間だけ、山からわけてもらう。
主役たちには順番がある。まだ寒さの残る早春、ほろ苦いふきのとうが先陣を切る。続いて、シダの新芽がくるんと渦を巻いたこごみ。アクが少なく、茹でてそのまま食べられる素直な緑だ。そして「山菜の王様」と呼ばれるたらの芽。わらびやぜんまいは灰や重曹でアクを抜いてから、ようやく食卓に上がる。食用になる山菜は300種類ともいわれるが、里の台所が覚えているのは、その土地の山が毎年くれる顔ぶれだ。
旬は春、3月から5月。平地では3月下旬から4月中旬、標高の高い土地では4月中旬から5月上旬——雪解けを追いかけるように、旬は山を登っていく。
忘れてはいけないのは、これがもともと飢えをしのぐための知恵だったことだ。江戸時代、米沢藩は食べられる山菜や野草の解説書『かてもの』を領民に配った。凶作の年に命をつないだ緑が、いまは春の訪れを告げるいちばんの味覚になっている。促成栽培が本格化したのは1980年代——つい最近まで、山菜はすべて、山が気前のいい年にだけ多くもらえる、不確かな贈りものだった。
天ぷらにするなら、採れた谷のそばがいい。山菜は鮮度の食べものであり、そして土地の食べものだ。盛るのは、その土地の器とかご。作家の名前ではなく、暮らしが選んできた道具の上で、春はいちばん春らしくなる。
東北や信越の里山では、春になると直売所や宿の膳に山菜が並ぶ。雪国の春を食べに行く旅は、この国の「短い旬」を体で知る、いちばんやさしい入口かもしれない。
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