
冬の奥三河、夜通しの霜月神楽。大釜の湯と赤い鬼、そして湯ばやし。「生まれ清まり」を祈る、消えかけの村の祭り。
火と、湯と、夜。
奥三河——愛知の北のはずれ、山と谷がいくえにも重なる北設楽の里に、鎌倉のむかしから伝わる神事がある。花祭という。熊野の修験者が伝えたと言われる霜月神楽で、その心は「生まれ清まり」。冬のもっとも寒い夜、大地の精霊を呼び覚まし、いのちの蘇りを祈る。人はこの夜を通り抜けて、生まれ直し、清まるのだ。
舞庭(まいど)の中央には、湯をたぎらせた大釜が据えられる。夜を徹して、およそ四十もの舞が次々とまわる。花笠をかぶった子どもたちの花の舞。やがて赤い鬼——鉞をかざす榊鬼が、地を踏み鳴らして現れる。そしてクライマックス、湯ばやし。白い装束の若者たちが藁束で釜の湯を掬い、観衆の頭上へ豪快に撒き散らす。湯気と飛沫、「テーホヘ、テホヘ」の掛け声。舞う者と見る者の境が消えて、庭はひとつの熱になる。
一九七六年、国の重要無形民俗文化財に指定された。けれど、この祭りを支えてきたのは、山あいの小さな集落の人々である。過疎と少子化のなかで、担い手は年々細り、休む集落、合わせて舞う集落も出てきた。四十の舞を夜通し継ぐには、村じゅうの手がいる。灯りのともる舞庭は、いま、暗い山の中に、ぽつり、ぽつりと減っていく。
火と湯の夜を守ることは、村そのものを守ることだ。生まれ清まる場所が、ひとつ、またひとつと、静かに消えていく。




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