
海神の総本社・志賀海神社で、毎年四月と十一月、海の民が山を誉める。「ああらよい山、繁った山」——柴で三山を祓い、矢を射て、藁の鰭で鯛を釣る所作まで、海と山の幸への感謝がひとつの環になる。福岡県指定無形民俗文化財。
海の神様が、山を誉める日。
博多湾の入口に、志賀島という小さな島がある。金印の島として知られるこの島の奥に、海神(わたつみ)の総本社・志賀海神社が鎮まっている。祀るのは綿津見三神——海の底、中、表を守る神々。代々この神々に仕えてきたのは、古代の海人族・阿曇の人々である。
その海の総本社で、一年でも大切な祭りは、山を誉めることから始まる。
毎年四月十五日と十一月十五日。大宮司が「ことなき柴」の枝を折り採り、志賀島の三つの山を祓う。標の山の前で扇が開かれ、拍が合わせられる。そして、山に向かって声が上がる。
「ああらよい山、繁った山」
よい山、繁った山。海に生きる者たちが、山に向かってかける言葉である。祭りはこのあと、狩の問答へ、矢を射る作法へと続き、最後は藁でつくった鰭を手に、磯良ヵ崎へ漕ぎ出して鯛を釣る所作で結ばれる。山を誉め、狩をし、海で釣る——山の幸と海の幸が、ひとつの祭りの中で環になっている。
起こりは神功皇后の伝説にさかのぼるという。海を渡る皇后を、志賀の海士たちが海山の幸で饗した——その饗応が、この祭りのかたちになったと伝わる。春の祭りには種を蒔く所作が加わり、名も「山誉種蒔漁猟祭」。秋は「山誉漁猟祭」。海の民の一年が、山と海のあいだで巡っていく。
式の次第や唱えごとは、江戸の頃の記録とは少しずつ姿を変えてきた。それでも古いかたちを今にとどめている点で、県内でも珍しい祭りだという。福岡県の無形民俗文化財に指定されている。
海で生きる人ほど、山をよく見ている。よい山、繁った山と声に出して誉める——その素朴な言葉の中に、海と山をひとつのものとして生きてきた、この国の暮らしの記憶が残っている。




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